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【相続コラム】40年ぶりの相続法大改正が与える影響について

1、はじめに

平成30年7月6日、相続法の大改正が国会で成立し、同年7月13日公布されました。

相続法の主な改正点は、以下のとおりです。

①配偶者について長期居住権と短期居住権の新設
②配偶者について持戻し免除の意思表示の推定
③自筆証書遺言について、遺言書の方式緩和と保管制度の創設

④遺留分制度の見直し
⑤預貯金の遺産分割前の仮払い等の制度新設
⑥相続の効力や相続人以外の寄与を考慮する制度の創設など
 
改正相続法が施行されるのは、原則として公布の日から1年以内の政令で指定される日です。
但し、遺言書の方式緩和の規定については、平成31年1月13日から施行されます。
また配偶者保護規定の内、居住権については、公布の日から2年以内の政令で指定される日からの施行となります。
以下では、主な改正内容を説明します。

2、配偶者居住権の創設

(1)配偶者の長期居住権について

配偶者が、被相続人(亡夫または亡妻)の所有する建物に、相続開始時に居住していた場合、遺産分割または遺贈で、配偶者居住権を取得することができます。
配偶者長期居住権を取得すると、配偶者は、居住建物全部を無償で使用収益することができます。
配偶者長期居住権は、賃借権類似の法定債権とする考えが有力です。

被相続人から建物の所有権を取得した人は、配偶者居住権の設定登記をする義務があります。

配偶者居住権が登記されますと、配偶者が居住する建物が処分され、建物所有者が変わっても、居住権を新所有者に主張できます。
妻または夫が、配偶者長期居住権を取得した場合、財産的価値があるので、相続税の課税対象となります。
配偶者長期居住権の相続税評価については、法制審議会民法部会の資料で、下記の計算式によるとの考え方が示されたようです。
 (建物の賃料相当額)×(存続期間)-(中間利息)
配偶者居住権の存続期間を終身とするときは、平均余命の年数を使用することになるようです。
配偶者が長期居住権を取得する場合、長期居住権が設定された建物やその敷地の所有権を取得した相続人については、当該建物と敷地の相続税評価は、配偶者長期居住権の評価額を控除して課税することになるようです。
そうなると、配偶者長期居住権は、当該配偶者の死亡により消滅し、相続対象にならないので、配偶者長期居住権の設定は、二次相続対策(節税対策)になる可能性があります。

(2)配偶者の短期居住権

①配偶者が、相続開始時に相続財産である建物に居住していた場合、当該配偶者は、以下のいずれか遅い日まで引き続き、当該建物を無償使用することができます。
ⅰ)遺産分割により居住建物の所有権帰属が確定した日
ⅱ)相続開始のときから6ヶ月経過する日
②配偶者が、相続開始時に相続財産である建物に居住していた場合、上記①以外のときは、当該配偶者は、その建物の所有権を取得した者から立退きの申入れを受けた日から6ヶ月を経過する日まで、引き続き建物を無償使用することができます。
配偶者短期居住権は、これによって得た利益を、配偶者の具体的相続分から控除することは要しないとされています。
そうなると、配偶者短期居住権は、相続税が課税されない財産になると思われます。

3、持戻し免除の意思表示の推定

改正前は、各相続人の具体的相続分を算定するにあたり、相続人が贈与または遺贈により取得した財産を特別受益として、当該相続人の相続分の額から、その財産の価額を控除することとされています。
ただし被相続人が、持戻しの免除の意思表示をしたときは、上記のような贈与または遺贈された財産額を相続分から控除しなくても良いので、より多くの財産を取得することができます。
改正相続法は、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他方の配偶者に、居住用不動産を生前贈与または遺贈した場合については、持戻し免除の意思表示を推定しますので、贈与または遺贈された居住用財産の価格を、特別受益としないで計算できることになります。

4、遺言制度の改正について

(1)自筆証書遺言の方式緩和

改正前は、自筆によって遺言する場合、遺言者が文章の全文と日付と氏名を自書し、これに押印しなければ、無効とされていました。
しかし高齢者などにとっては、全文を自分だけで書くことは労力がいるし、遺言の加除訂正の方式も厳格なため、方式違反が生じて遺言者の最終意思が実現できない恐れがあるとの指摘がありました。
そこで、改正相続法では、相続財産目録については、遺言者が自分で書くことを要しないとして要件を緩和しました。
但し相続財産目録の一枚ごとに、遺言者の署名押印が必要です。

(2)法務局での自筆証書遺言保管制度の創設

相続法改正に伴い、「法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言保管法)」が、平成30年7月6日成立し、同月13日公布されました。
これにより法務局で自筆証書遺言を保管できるようになります。
遺言者は、自ら出頭して自筆証書遺言書の保管を、法務局に申請します。
保管できる自筆証書遺言は、封印されていないものに限ります。
遺言者は、当該法務局に遺言書の返還または閲覧を請求できます。
遺言者の死亡後であれば、自己を相続人とする遺言書や自己を受遺者または遺言執行者とする遺言書について、保管中の法務局に閲覧などを請求できます。
この保管制度を利用する場合には、裁判所による自筆証書の検認手続は必要なくなります。
この制度は、公布の日から2年以内に施行される予定です。

5、遺留分制度の改正について

(1)遺留分減殺請求の効力の見直し

改正前相続法では、遺留分減殺請求の行使によって、当然に物権的効果が生じ、各相続財産について、遺留分権利者との共有関係が生じるとされ、請求された側が価額弁償の意思表示をしたときに、遺留分減殺請求が、全て金銭債権になるとされています。
しかし、そのような取扱いは、円満な事業承継を困難にするとの指摘がありました。また遺留分権利者の生活保障や遺産形成に貢献した相続人の潜在的持分精算という遺留分制度の趣旨からみれば、遺留分侵害額の価値を返還させれば十分との意見もありました。
そこで、改正相続法では、遺留分減殺請求は、遺留分侵害額に相当する金銭を請求する権利になります。
そうなると請求された側は、遺留分相当額の金銭を準備できない事態が生じます。
そこで、遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者らが、当該金額を準備できない場合、裁判所に金銭支払額の全部または一部について、相当の期限の許与を求めることができるようになります。

(2)遺留分算定方法の見直し

改正前相続法では、相続人に対してなされた生前贈与については、その時期を問わず、遺留分算定を算定するための財産に含めると解釈されています。
改正相続法では、相続人に対する贈与は、原則として、相続開始前の10年間にされたものに限り、その価額を遺留分算定の財産価額に含めることにしました。
但し、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与したときは、相続開始前10年より前の贈与でも遺留分算定の財産価額に含まれます。
相続人に対する贈与は、婚姻もしくは養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与に、限られます。
相続人以外の者に対する贈与は、原則として、相続開始前の1年間になされた贈与が、遺留分算定のための財産になります。
但し、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与したときは、相続開始前1年より前の贈与でも遺留分算定の財産価額に含まれます。
今回の遺留分算定規定の改正により、株式の生前贈与による事業承継が、やりやすくなると思われます。

6、預貯金の仮払い制度等

預貯金については、従来は、遺産分割の対象でなく、各相続人が法定相続分に応じた金額を、単独で払戻できるとされていました。
けれども平成28年12月19日の最最高裁判所大法廷決定により、遺産分割協議が成立する前の預貯金払戻が困難になり、相続人全員の協力がないと払戻できなくなり、葬儀費用などの支払に困る事態が生じるとの指摘を受けました。
そこで遺産分割成立前でも、預貯金の払戻ができる制度が創設されたのです。

(1)一定金額の預貯金払戻

各相続人は、相続財産である預貯金のうち、相続開始時の預貯金額の3分の1に、払戻を求める相続人の法定相続分を乗じた金額について、単独で払戻ができます。
但し、諸事情を勘案して預貯金債権の口座ごとに法務省令で定める額が限度とされています。
これにより取得した預貯金については、払戻を受けた相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされます。
したがって相続税申告では、一部分割された財産として申告することになると考えられます。

(2)家事事件手続法の保全処分の要件緩和

家事事件手続法が改正され、遺産分割の調停または審判の申立がなされたときは、債務の弁済・生活費の支弁などにため、預貯金の払戻の必要あるときは、裁判所への申立により、保全処分として預貯金払戻を認められます。
これによる預貯金払戻しは、仮の取得なので、相続税申告時までに、遺産分割がまとまらなければ、未分割預貯金として申告することになります。

7、その他の改正内容について

(1)遺言執行者の権限の明確化

遺言執行者の一般的権限として、遺言執行者がその権限内において遺言執 行者であることを示してした行為は、相続人に対し直接効力が生じることを明文化しました。
また特定遺贈または特定財産承継遺言がされた場合の遺言執行者の権限も明文化されました。

(2)相続による権利の承継について

改正前は、相続させる旨の遺言により承継された財産は、登記がされていなくても第三者に対抗できるとされています。
改正相続法では、相続による権利の承継は、遺産分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える権利の承継は、登記などの対抗要件を備えないと第三者に対抗できなくなります。

(3)相続による義務の承継について

改正相続法では、相続債権者は、各共同相続人に対して、その法定相続分に応じて権利を行使できますが、相続債務者が共同相続人の1人に対し指定相続分に応じて義務の承継を承認するときは、この限りでないとされます。

(4)相続人以外の者の貢献の考慮

相続人以外の被相続人の親族(長男の妻など)が、被相続人の療養看護をした場合、改正相続法では、その者(特別寄与者)は、相続人に対し、特別寄与料を請求できるようになります。

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この記事の監修者

弁護士・税理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)

小林 幸与(こばやし さちよ)

〇経歴

明治大学法学部卒業、昭和61年に弁護士登録。現在は第一東京弁護士会所属の弁護士に加え、東京税理士会所属の税理士、日本FP協会認定AFP資格者。

日弁連代議員のほか、所属弁護士会で常議員・法律相談運営委員会委員・消費者問題対策委員会委員など公務を歴任。

豊島区で20年以上前から弁護士事務所を開業。現在は銀座・池袋に事務所を構える「弁護士法人リーガル東京・税理士法人リーガル東京」の代表として、弁護士・税理士・ファイナンシャルプランナーの三資格を活かし活動している。

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