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遺留分対策(遺留分侵害額請求に備えて)

ある人が亡くなり遺言などで一部の相続人(妻や長男など)に財産の全部または大部分を相続(または遺贈)させた場合、財産を相続できなかった相続人から遺留分侵害額請求をされることが多いです。そこで遺留分侵害額請求に備えての対策を、以下で説明します。

1、対策の内容

(1)遺留分放棄の事前許可の審判

家庭裁判所に遺留分放棄の事前許可の申立を、遺留分を放棄してくれる相続人に申立てをしてもらいます。

家庭裁判所の許可を得やすくするために、遺留分放棄の見返りとして、生前贈与等を行うことが少なくありません。

但し、一度得られた遺留分放棄の許可について、家庭裁判所は許可を取消すことができるとされていますので、「遺留分放棄の許可があれば完璧」とまでは言えないので、注意して下さい。

 さらに遺留分の放棄とあわせて被相続人予定者が遺言書を作成しておく必要があります。

 遺留分の放棄では、生前に相続分を放棄したことにならないため、遺留分放棄者に相続をさせない内容の遺言をきちんとしておかなければ、遺留分放棄者も遺産分割協議で相続分を主張できることになってしまうからです。

(2)養子縁組

法定相続人である子の人数を養子縁組で増やし、遺留分侵害額請求をすることで予想される相続人の遺留分を減少させるという方法です。

例)甲乙夫婦の実子が長男長女の2名のケースで、甲乙が養子縁組しなければ、甲死亡の場合、法定相続分は妻乙2分の1、長男長女各4分の1ですので、

長男が甲の全財産を取得する場合、長女の遺留分は8分の1です。

これに対し甲乙が長男の子(孫)と養子縁組をした場合では、長女の遺留分は12分の1になり、遺留分が減るのです。

もっとも養親と養子との間に真正な縁組の意思がないと養子縁組は無効となります。

この点について、相続税対策目的での養子縁組の効力が問題となったケースがあります。

この点について、最高裁 平成29年1月30日判決は、以下のとおり判示しています。

『養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない』 

 以上のことは、遺留分対策目的での養子縁組も同様で、遺留分対策目的があったというだけでは、養子縁組は無効とならないと考えます。

(3)一時払終身保険の利用(被相続人の財産を減らす)

 例えば、親が保有する預貯金を元に、子を受取人とする一時払終身保険(生命保険)に加入すれば、その死亡保険金は民法上の遺産ではなくなりますので、遺留分額を減らせます。

但し、財産の大半を一部の相続人を受取人とする生命保険に変えると、生命保険金の受給が特別受益に該当する可能性があります。

そうなると、遺留分減殺の対象とされる恐れがあるので注意して下さい。

(4)金融機関から借入(被相続人の財産を減らす)

 例えば、親が金2000万円の預金を保有し、面積60坪の土地(更地で時価1億円)を所有していた場合、親が、預金1000万円を頭金とし、銀行から35年ローンで8000万円を借入れて建物(共同住宅)を建てたとします。

そうすると、親の財産は土地と預金で併せて1億1000万円、借入金が8000万円となります。建築資金9000万円の建物だとしても年々の建物価値は減少し、借入金の減少より早く建物価値が減少します。したがって親の債務が多く残っている分、遺留分の金額も少なくできます。

3.遺留分の支払方法についての対策

(1)遺留分減殺の順序の指定(遺言の活用)

遺言を活用した遺留分対策を説明します。

まず、遺言に付言事項を記載しておくことが考えられます。つまり、法定相続分と大幅に異なる(遺留分侵害のおそれのある)遺言をするに至った動機(例えば、寄与度、扶助・扶養の努力、生前贈与等)をできるだけ具体的に記載して、遺留分権利者の納得を得られるようにします。遺留分侵害額請求はされないようにするということです。

次に、遺留分減殺の順序の指定を遺言でしておくことが考えられます。財産を相続(遺贈)される人が複数いる場合や、対象財産の種類や数が多い場合、遺留分減殺の分担関係の認定が難しくなります。

そこで、遺言者は、遺留分の順序について、以下のとおり指定できます。

① 遺留分侵害額請求の相手方の指定
 指定の相続人に相続させるべき財産から減殺すべき旨を遺言に記載します。
② 遺留分侵害額請求の対象財産の指定
 例えば、①山林、②雑種地、③宅地、の順とする等を遺言書に記載します。

遺言を活用した遺留分対策については、知識経験豊富な弁護士法人リーガル東京にご相談ください。

(2)生命保険の活用

遺言で相続人の遺留分を侵害する事態が避けられないようなら、被相続人予定者が予め現預金を利用して、不動産などの主な財産を取得する相続人を受取人として、生命保険に加入することが対応策として考えられます。遺留分侵害額請求をされる人が生命保険金を受け取れるようにすれば、生命保険金額を遺留分の支払原資とできます。

すなわち①現預金を保険料に変えることにより相続財産を減少させ(遺留分侵害額減少)、②遺留分侵害額請求がなされても保険金を使って価額賠償し、不動産などの重要な相続財産を渡さなくてもよいようにできます。

受取人が特定人に指定されている生命保険金は相続財産ではなく、受取人固有の財産となり、死亡後比較的速やかに支払いを受けることができます。しかも原則として遺留分算定の基礎財産に含まれませんので、遺留分侵害額請求の対象にもなりません。

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この記事の監修者

弁護士・税理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)

小林 幸与(こばやし さちよ)

〇経歴

明治大学法学部卒業、昭和61年に弁護士登録。現在は第一東京弁護士会所属の弁護士に加え、東京税理士会所属の税理士、日本FP協会認定AFP資格者。

日弁連代議員のほか、所属弁護士会で常議員・法律相談運営委員会委員・消費者問題対策委員会委員など公務を歴任。

豊島区で20年以上前から弁護士事務所を開業。現在は銀座・池袋に事務所を構える「弁護士法人リーガル東京・税理士法人リーガル東京」の代表として、弁護士・税理士・ファイナンシャルプランナーの三資格を活かし活動している。

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