【相続コラム】遺言が無効になる理由と遺言作成時の注意点について、弁護士が解説
自分の死後の相続トラブルを防止したい、誰か特定の人に財産を譲りたい、このような場合は生前に遺言をしておくことが有効です。
しかし、遺言はさまざまな理由で無効になることがあります。せっかく作成した遺言が無効にならないように、無効になる理由や遺言作成時の注意点を確認しておきましょう。
1.遺言とは
遺言とは、被相続人(亡くなった方)が自分の財産を誰にどのように残すのかについて、生前に行う最終の意思表示のことです。
遺言には、以下のように重要な意味がありますが、無効になることも多いので注意しなければなりません。
遺言の重要性
遺言は、残された親族間の相続トラブルを防止するために重要です。
誰がどれだけの遺産を取得できるかは法律で定められていますが、遺産分割協議によって自由に遺産を分けることも認められています。そのため、各相続人が少しでも多くの遺産を取得しようとして意見が対立し、トラブルになるケースが後を絶ちません。
しかし、遺言で遺産分割の方法を指定しておけば、その内容が最優先されます。そのため、相続トラブルの防止に役立ちます。
また、例えば、配偶者に自宅を譲りたいと考えていても、遺言をしておかなければ実現できないおそれがあります。子どもなど他の相続人がいる場合、相続人全員の同意がなければ、配偶者は原則として法定相続分に相当する遺産しか受け取ることができません。それでは、配偶者が老後の生活に困窮することもあるでしょう。
しかし、遺言をしておけば確実に配偶者へ自宅を譲ることが可能となりますので、大切な人を守ることにもつながります。
遺言無効について
遺言は、法律上のルールに従って作成しなければ無効になります。
無効と判断された場合は、遺言がないものとして扱われます。そのため、相続トラブルが発生する可能性も高まりますし、自分の希望どおりに財産を渡すことも難しくなります。
遺言を作成する際には、遺言が無効になる理由を知り、正しい方法で作成することが大切です。
2.遺言が無効になる主な理由
遺言が無効になる主な理由は、次の4つにまとめることができます。
・法的要件の不備
・精神的能力の欠如
・遺言内容の矛盾
・外部からの圧力や不正
それぞれの理由について、具体的にみていきましょう。
法的要件の不備
自筆証書遺言の場合、以下のケースでは遺言の法的要件を満たさないため無効になります。
・自筆で記載されていない
・日付がないか、日付の特定ができない
・遺言者の署名、押印がない
・訂正方法が正しくない
・共同で作成されている
・内容が公序良俗に違反している
自筆証書遺言とは、遺言者本人が本文の全文・日付・氏名を自筆した書面に押印した遺言書のことです。本文は遺言者が全文を自筆しなければ無効ですが、2019年1月以降、財産目録はパソコンで作成したものや代筆したものも有効とされています。ただし、すべてのページに遺言者の署名・押印が必要です。
日付は、年月日を特定できるよう正確に記載しなければなりません。「令和○年○月吉日」といった記載では年月日を特定できないため無効になります。
署名は、戸籍上の氏名を正確に記載するのが一般的です。ただし、遺言者との同一性を示せるのであれば芸名やペンネームでも有効とされています。
押印は実印で行うのが一般的ですが、認め印や拇印でも有効です。
遺言書の記載を訂正する際には、訂正箇所に二重線を引いて新たな文字を記入し、その上に訂正印(署名の後に押印する印鑑と同じものを使用)を押印します。そして、余白または遺言書の末尾に「〇字削除、〇字追加」と記載し、その下に遺言者が署名します。
共同で遺言書を作成することは、民法で禁止されています。そのため、例えば、夫婦連名で遺言をした場合は無効です。
公序良俗に違反する内容が記載された遺言書も、無効となります。例えば、戸籍上の妻子がいるにもかかわらず、不倫相手にすべての遺産を譲る旨の遺言は公序良俗違反となる可能性が高いです。
精神的能力の欠如
遺言者の精神的能力が欠如していた場合には、その遺言が無効になることがあります。このケースに該当するのは、主に次の2つの場合です。
・認知症などにより、遺言の内容を理解できないほどに精神的能力が低下している人が遺言をした
・15歳未満の人が遺言をした
認知症などにより、遺言の内容を理解できないほどに精神的能力が低下している人が行った遺言は、無効です。ただし、認知症には軽度から重度まで程度に差がありますので、認知症と診断されていても、遺言の内容が理解できて、その遺言によってどのような結果が生じるかを認識できる程度の理解力や判断力が残っている場合は、有効となります。
15歳未満の人は一般的に遺言の意味を適切に理解できないと考えられているため、民法上、遺言はできないものとされています。親権者が代理して遺言をすることもできません。
遺言内容の矛盾
遺言内容は、遺言書の記載のみで確定的に読み取れなければ、その遺言は無効になります。例えば、「すべての遺産を長男に譲る」と記載してある一方で、「預金は二男に譲る」と記載されていると、内容が矛盾しているため全体的に無効となる可能性があります。
矛盾していなくても、内容が不明確な遺言も無効となります。例えば、「不動産を妻に譲る」といった記載では、すべての不動産を譲るのか、一部の不動産を譲るのかの特定ができない場合があります。そのような場合は、遺言が無効となる可能性があります。不動産については、第三者が見ても特定できるように、正確に記載する方が良いでしょう。
なお、内容が矛盾する遺言書を複数作成した場合は、最後に作成した1通のみが有効となり、それ以外は無効です。
外部からの圧力や不正
遺言書の形式や内容に問題がなくても、誰かに脅されたり、騙されたり、そそのかされたりして作成した遺言書は、遺言者の真意が反映されていないことから、無効となる可能性があります。
また、遺言書を作成した後に何者かが内容を改ざん(変造)したり、第三者が遺言者になりすまして作成(偽造)したりした遺言書も、同様に無効です。
3.遺言の類型
遺言には、次の4つの類型があります。
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
・秘密証書遺言
・危急時遺言
それぞれの特徴と、無効になりやすいケースをみていきましょう。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、本人が本文の全文・日付・氏名を自筆で書いた書面に押印したもののことです。
自筆証書遺言には、以下のメリットがあります。
・費用がかからない
・証人が不要なので1人で作成できる
・遺言書の存在と内容を秘密にしておくことも可能
・いつでも自由に作成できる
しかし、自筆証書遺言は「様式の不備」や「遺言内容の矛盾」などにより無効になりやすいことに注意が必要です。
また、自宅で保管していると改ざんされたり、隠匿されたりするおそれがあります。だからといって見つかりにくい場所に保管していると、相続人に発見してもらえない可能性が高まってしまいます。
法務局の遺言書保管制度を利用すれば、これらのリスクを軽減することが可能です。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人に遺言書を作成してもらうことによって行う遺言のことです。
公証役場において、証人2名の立ち会いのもと、遺言者が公証人に対して遺言内容を口述(筆談・手話通訳も可)し、その内容を公証人が筆記して遺言書が作成されます。
公正証書遺言には、以下のメリットがあります。
・公証人が作成するので、「様式の不備」や「遺言内容の矛盾」などで無効になるおそれがない
・遺言書の原本は公証役場で保管されるので、改ざんや隠匿のおそれがない
ただし、公正証書遺言でも「精神的能力の欠如」で無効になることがありますし、「外部からの圧力(脅し、騙し、そそのかしなど)」で無効になる可能性もゼロではありません。
また、「費用がかかる」、「証人2名が必要」、「公証役場への出頭が必要」などのデメリットもあります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言書を封筒に入れて封緘し、その封筒を公証役場に持参して、遺言書の存在を公証人に証明してもらう方法による遺言のことです。
秘密証書遺言には、以下のメリットがあります。
・遺言の内容を秘密にできる
・偽造や変造のおそれがない
ただし、公証人は遺言書の内容までは確認しないため、自筆証書遺言と同様に「様式の不備」や「遺言内容の矛盾」により無効になりやすいといえます。
また、公正証書遺言と同様に、「費用がかかる」、「証人2名が必要」、「公証役場への出頭が必要」といったデメリットもあります。
危急時遺言
遺言者が病気やけが、遭難などで危篤状態になったときは、特別の方式による遺言を行うこともできます。この遺言のことを「危急時遺言」といいます。
例えば、病気で危篤状態になったときは、証人3名の立ち会いのもと、そのうちの1名に遺言内容を口述することによって遺言をすることが可能です。口述を受けた証人は遺言内容を筆記し、その書面(遺言書)に各証人が署名・押印します。
危急時遺言では、証人に専門的な知識がない場合、自筆証書遺言と同様に「様式の不備」や「遺言内容の矛盾」により無効になりやすいといえます。外部からの圧力(脅し、騙し、そそのかしなど)により無効となる可能性もあります。
また、危急時遺言は次の2つの理由によっても無効になります。
・遺言した日から20日以内に家庭裁判所の確認を受けない
・遺言者の体調が回復するなどして一般方式による遺言が可能な状態になってから6ヶ月が経過した
なお、危急時には公証人に遺言者の自宅や病院等に出張してもらい、公正証書遺言をすることも可能です。できる限り、公正証書遺言を作成した方が遺言無効のリスクを軽減できるでしょう。
4.遺言が無効とされた具体例とそのポイント
実務上、遺言が無効とされるのは、自筆証書遺言で「様式の不備」や「遺言内容の矛盾」によるケースが圧倒的多数です。
その他には、自筆証書遺言でも公正証書遺言でも、遺言者が遺言当時に認知症を患っており、遺言能力がないため無効とされるケースも多いです。
例えば、東京地裁令和4年4月26日判決では、遺言者の認知能力は時間の経過に伴って悪化し、遺言当時には自筆証書遺言を作成するために必要な遺言能力がなかったと認定され、遺言無効とされました。
認知症と診断された人が行った遺言の有効性については、主治医や専門医などによる医学的見解を重視しながらも、遺言内容や遺言書を作成した経緯なども詳細に考慮した上で、遺言能力があったかどうかが判断されます。
遺言無効を回避するためには、できる限り認知症を患う前に遺言をすることが望ましいです。しかし、認知症と診断された後でも遺言できる可能性はありますので、困ったときは弁護士に相談してみた方がよいでしょう。
5.遺言作成時の注意点
遺言作成時には、あまりにも不公平な内容の遺言をしないように注意することも大切です。法的に有効な遺言であっても、著しく不公平な内容になっていると相続トラブルが生じやすくなるからです。
最低限、遺留分に配慮して遺言を作成した方がよいでしょう。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保証された最低限の相続分のことです。遺留分の割合は、以下のとおりです。
・相続人が直系尊属(両親、祖父母など)のみの場合…遺産相続の1/3
・その他の場合…遺産相続の1/2
遺言をもってしても、遺留分を剥奪することはできません。もし、遺留分を侵害する内容の遺言を作成した場合には、遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。
例えば、相続人として長男と二男がいる場合に、「すべての財産を長男に譲る」という遺言があったとしましょう。遺産総額が1,000万円だとすれば、二男が有する250万円の遺留分(遺産総額1,000万円×遺留分1/2×法定相続分1/2)が遺言によって侵害されています。
この場合、二男は長男に対して250万円の金銭支払い請求(遺留分侵害額請求)をすることが可能です。これが元で相続トラブルに発展することにもなりかねません。
相続トラブルを防止するためには、最低限、すべての相続人が遺留分に相当する財産を受け取れる内容の遺言をした方が無難です。
6.弁護士によるサポートを受けるメリット
遺言の作成は弁護士に依頼することをおすすめします。法律の専門家である弁護士のサポートを受けることで、以下のメリットが得られるからです。
・プロが遺言を作成してくれるので遺言無効を回避できる
・遺言作成にかかる労力や時間を削減できる
・被相続人の希望を最大限に尊重しつつ、遺留分にも配慮した遺言を作成できる
・公正役場での手続きもサポートしてもらえる
・事務所によっては自筆証書遺言を保管してくれるところもある
・弁護士には守秘義務があるので、遺言内容を秘密にしておける
せっかく遺言を作成しても、法的に無効となったり、著しく不公平な内容であったりすると、相続人間のトラブルを招くおそれが強くなります。
ご自身の亡き後、残された親族の方々へ正しく意志を伝えるためにも、弁護士のサポートを受けて遺言を作成することをおすすめします。
この記事の監修者
弁護士・税理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)
小林 幸与(こばやし さちよ)
〇経歴
明治大学法学部卒業、昭和61年に弁護士登録。現在は第一東京弁護士会所属の弁護士に加え、東京税理士会所属の税理士、日本FP協会認定AFP資格者。
日弁連代議員のほか、所属弁護士会で常議員・法律相談運営委員会委員・消費者問題対策委員会委員など公務を歴任。
豊島区で20年以上前から弁護士事務所を開業。現在は銀座・池袋に事務所を構える「弁護士法人リーガル東京・税理士法人リーガル東京」の代表として、弁護士・税理士・ファイナンシャルプランナーの三資格を活かし活動している。